僕はけっこう気分屋である．だからこの日も突然に出かけることを決め，ほとんど手ぶらで電車に乗り込んだ．

　７月２日(日)．まだ梅雨も明けきらないこの日，東海大学マンドリンクラブ（以下，TMCと略す）では恒例の部内発表会が開催されていた．もちろんふらりと出かけた目的はこれなのだが，発表会そのものについてはここでは別の機会に譲ることにする（個人的には，いきなり手ぶらで現れて図々しく一番最初に演奏するという暴挙に及んだ以外は，いたってまじめに聴いていたつもりである）．
　さて，この部内発表会にはたくさんのOB・OGがいらっしゃっていた．たくさんいらっしゃって，現役生に喜ばれていた．しかしそれは単に休日だからという理由だけではなく，どうも慰問演奏会の練習のためでもあったようで，ちょうど現役生が演奏している会場の，はす向かいの教室で打ち合わせが行われているようであった．「慰問演奏会か・・・」何やら好奇心が疼いた僕は，部内発表会の休憩時間を利用してちゃっかり潜り込んでみることにした．

　教室では黒板を使って打ち合わせが行われていた．黒板には日時や場所，簡単なスケジュールなどが書き込んである．僕はしばらく教壇の上の，キャスター付の事務用の椅子に腰掛けてそれを眺めていたが，そのうちだんだんと話に混ざりだし，とうとうお仲間に加えてもらうことに成功した．と，こう書くといかにも打算的な行動に見えてくるが・・・実はその通りであったりする（笑）．いや，ラッキーラッキー．
　さて，その後も会議は進むわけだが，しかし，簡単なスケジュール確認から当日の持ち物について話が移り，奏者の服装を統一しない代わりにTMCジャンパー，通称『マンジャン』を着ようということが提案されると，ある先輩はポツリと呟いた．
　「捨てちゃった・・・」

　その独特の色合いからか一部マニア（？）に人気のマンジャンは，ちょうどこの方の在学中にクラブでデザインされ，それから96年度までの部員が購入していたという，ある意味『ちょっとレアな』アイテムである．もっとも，日常生活において着る機会も少ないので捨てちゃっていてもおかしくはないが（本当はその逆で，部屋着として着古してしまったそうなのだが），それでも一同は驚いた．
　ではこの案はボツになったかというと実はそうでもなく，何を隠そうこのマンジャン，時として持ち主が変わることがあり，しかも一所に何着も居候している場合が多いのである．だったらその中の一着を借りてしまえということであっさりと解決してしまった．

　結局その後，その場でできる曲だけを一通り合わせ，そして次回の予定を決めたところでお開きとなった．

　それからおよそ１ヶ月後の，７月３０日（日）．二度目にして最後の練習日となった．練習は本番を行う会場近くの，とある施設で行われ，そこで最終的な曲目も以下のように決定した．

　◆建学の歌
　◇オー・ソレ・ミオ
　◆シバの女王
　◇恋するデビー
　◆Yesterday Once More
　◇恋はみずいろ
　◆「劇場支配人」序曲
　◇真珠とりの歌
　◆イスパニア・カーニ
　◇明日に架ける橋
　◆荒城の月による変奏曲

　この日残念ながら僕は他用のため欠席してしまったが，後日談でおもしろいことが聞けた．それはなんと，終了後に行ったカラオケ屋でも楽器を手に練習をしていたということだった．なんでも残響が素晴らしく，演奏のし甲斐があったとかなかったとか・・・なるほど盲点である．ただし，それなりに目立っていたらしいことも忘れず付け加えておこう．